遺産相続の基本 2022/9/12

相続登記とは?相続登記は自分でできる?手続きの流れと申請の期限を解説

相続登記とは?相続登記は自分でできる?手続きの流れと申請の期限を解説
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相続登記には期限がなく、登記をしないことによる罰則等もありませんが、相続登記をしないとさまざまな不都合が生じる可能性があります。相続登記をスムーズに行うには、その必要性と、手続きの流れを知ることがポイントです。

相続登記とは

相続財産に不動産が含まれる場合に、亡くなった方(被相続人)から、その不動産を相続する方(相続人)に登録名義を変更することを、相続登記といいます。

遺言書で指定されたり、遺産分割協議で他の相続人の同意を得ただけでは、相続不動産を担保に供したり売買することはできません。相続登記をすることではじめて、その不動産が正式に相続人の所有する財産だと証明できるのです。

相続登記は自分でもできる?

相続登記の手続きは、手続きの流れを理解し、手続きにかかる時間を確保できれば、自分で行うことも可能です。ただし、権利内容が複雑な不動産などは、自分で行うのが難しい場合が多いでしょう。一般的な相続登記の手続きは難しいわけではありませんが、とても煩雑です。つまり、素人が自分で行うには面倒な手続きが多いのです。

書類の準備に慣れた専門家ならスムーズに行えることも、慣れていないと一つ一つの手続きでつまずくことも考えられます。相続登記は一生のうちに1回か2回、必要になる程度でしょうから、一般の相続人が手続きに慣れていることはまずないでしょう。万が一やり直しになってしまった場合などは、時間も費用も失ってしまいます。

相続登記は自分でもできるが、専門家へ依頼するメリットは大きい

また、書類を手際よく集められず時間がかかってしまうと、その間に他の相続人が亡くなってしまい、手続きがさらに増えてしまうこともあり得ます。相続人が増えると、必要な戸籍などの書類も増えてしまいます。相続登記に期限がなくても、手続きはできるだけ早く済ませたほうがよいのです。

相続登記に必要な書類を集めるために、平日に仕事を休んで遠くの役所へ出向く必要があるかもしれません。そういった手間と時間を考えると、費用的にも司法書士などの専門家へ依頼した方が安くなることもあります。

日頃から税理士などの専門家に相続について相談しておくと、相続登記についてもアドバイスをしてもらえますし、必要なら別の専門家を紹介してもらえるでしょう。

相続登記を専門家へ依頼するメリット・デメリット

メリット

  • 早い
  • 確実
  • 権利関係が複雑な不動産でも安心
  • 相続登記以外の相談もできる
  • 手続きにかかる手間と時間を考えると自分で手続きをするより安いことも

デメリット

  • 費用がかかる

相続登記の流れ

相続不動産の名義を確認

相続財産に不動産が含まれていた場合、まずはその不動産の状況を確認します。亡くなった方の名義だと思っていた不動産が、実はまだ別の方の名義になっているということもあり得ます。これは、家族で代々受け継いできた家屋などでよく見られるケースです。

不動産の名義は、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得すれば確認できます。登記簿謄本を取得するには、相続財産の正確な地番や家屋番号が必要ですので、あらかじめ固定資産税の納税通知書などで確認しておきましょう。

相続不動産の名義確認に必要な書類

必要な書類 用途 請求先
登記簿謄本 不動産の名義やいつ取得したかなどの正確な情報を知るため 法務局
固定資産税の納税通知書 登記簿謄本請求に必要な正確な地番や家屋番号を知るため 市区町村から毎年届く

固定資産税の納税通知書を紛失するなどして確認できない場合は、市区町村に固定資産評価証明書を請求することもできます。

相続人の確認

相続登記の手続きをするために、最終的にはすべての相続人の同意が必要です。ですから、まずは相続人が誰なのか、確認をする必要があります。

相続登記には、大きく分けると次の3つのケースがあります。

  1. 遺言書が存在せず法定相続分の割合で相続登記をするケース
  2. 遺産分割協議をして相続登記をするケース
  3. 遺言書の内容に従って相続登記をするケース

それぞれに必要な書類などが異なりますが、相続登記手続きの大まかな流れは同じです。

1.遺言書がない場合は法定相続人の確認を

遺言書が存在しない場合、相続人は法定相続人のみです。ただし、相続人が既に死亡している場合は代襲相続となることもありますし、養子も相続人ですから、相続人全員を確実に把握しましょう。

2.遺産分割協議で遺言書と異なる分割をした場合

遺言書が存在していても、その内容に納得がいかない相続人がいる、などの理由で遺産分割協議をして、遺言書の内容とは異なる方法・割合で遺産を分割することがあります。その場合は相続登記の際に遺産分割協議書を提出します。

3.遺言書の内容に従って法定相続人が相続するとき

遺言書の内容に従って法定相続人が相続をする場合は、家庭裁判所で遺言書の検認手続きをします。相続登記時には遺言書だけではなく、検認を受けたことを証明する証明文が必要ですから注意しましょう。ただし、秘密証書遺言と公正証書遺言は、その存在を証明済みなので証明文は必要ありません。

また、遺言書の内容にしたがって相続不動産を法定相続人以外に遺贈する場合には、登記原因が「遺贈」となります。相続登記とは登録免許税率や必要書類が異なりますから注意しましょう。

必要な書類集め

相続登記で一番苦労するのが、登記申請に必要な書類集めです。主な必要書類についてみていきます。

被相続人の生涯すべての戸籍謄本

法定相続割合に応じて相続登記をする場合や、遺産分割協議をした場合には、相続人の範囲を確定するために、被相続人が生まれてから亡くなる直前までの戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍などのすべてが必要です。

生涯すべてですから、日本各地を転々としていることもあります。また、被相続人が高齢な場合、書類が古くて地名が読みづらいことなどもあり、非常に煩雑な作業です。通常は、死亡時の本籍地から出生地まで1つずつさかのぼって請求していきます。

また、遺言書の内容に従って相続登記をする場合は、相続人全員を確定する必要がないため被相続人の死亡時の戸籍謄本のみが必要となります。

相続人の戸籍謄本・住民票・印鑑証明

相続登記では、すべての相続人の戸籍謄本・住民票の写し(登記申請書に住民票コードを記載する場合は不要)・印鑑証明が必要です。

遠方に住んでいる相続人や普段付き合いがない相続人、自分と関係の悪い相続人や、近くにいても印鑑証明の提出をなかなかしてくれない相続人がいる場合など、簡単に揃わないことも多いでしょう。

印鑑証明や戸籍謄本、住民票も、相続登記のケースによって必要な範囲が異なりますので、注意しましょう。

遺産分割協議書

遺産分割協議によって相続登記をする場合は、遺産分割協議書を作成します。

固定資産評価証明書

固定資産評価証明書は、市区役所(町村役場)で請求できます。(市区町村によって書類名が異なることがあります。)

相続登記の登記申請書を作成する

登記申請書に決まった書式はありませんが、法務局のホームページなどからテンプレートをダウンロードすることが可能です。A4の用紙を用い、黒インクや黒ボールペンを使用しましょう。

登記の目的

相続登記の場合は「所有権移転」と記入します。ただし被相続人が他の人と共同で所有していた相続不動産の場合は「〇〇持分全部移転」と記入します。

登記の原因

登記の原因は相続ですので、相続開始(被相続人の亡くなった日)の日付とともに「相続」と記入します。

相続人の住所・氏名・持分・押印

添付資料の登記原因証明情報は、被相続人と相続人の戸籍謄本のことです。住所証明情報とは相続人の住民票の写し(住民票コード記載時は必要なし)のことです。

添付情報

不動産を相続する人の住所・名前・相続割合を記入します。住民票コードを記載するときはここに記入します。印鑑は実印が必要です。

申請日

法務局で実際に書類を提出する日を記入します。

申請を行う法務局の名称

申請先の法務局名を記入します。支局の場合は支局名も記入します。

課税価格

課税価格には、相続登記を行う不動産の固定資産評価額を記入します。固定資産評価額は固定資産税の納税通知書にも記載されていますし、市区町村で固定資産評価証明書を取得し、確認することもできます。課税価格を記入する際は、1,000円未満を切り捨てます。

登録免許税

登録免許税は課税価格の0.4%ですので、計算式は「課税価格×0.004」です。登録免許税は100円未満を切り捨てます。

不動産の表示

相続登記をする相続不動産の情報を記入します。

登記申請書に記入する内容
  項目 記入例
1 登記の目的 所有権移転
2 登記の原因 平成〇年〇月〇日相続
3 相続人の住所・氏名・持分・押印

 

○○市○○町〇丁目〇番地

持分2分の1 〇〇〇〇 印

○○郡○○町○○番地

持分4分の1 〇〇〇〇 印

○○市○○町〇丁目〇番〇号

持分4分の1 〇〇〇〇 印

4 添付情報 登記原因証明情報

住所証明情報

5 申請日 平成〇年〇月〇日申請
6 申請を行う法務局の名称 〇〇法務局御中
7 課税価格 金〇〇〇〇〇〇〇〇円
8 登録免許税 金〇〇〇〇円
9 不動産の表示 不動産番号 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

所在 ○○市○○町〇丁目〇番〇号

地番 〇〇〇番〇

地目 宅地

地積 〇〇㎡

 

不動産番号 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

所在 ○○市○○町〇丁目〇番〇号

家屋番号 〇〇番〇

種類 居宅

構造 〇〇

床面積 1階 〇〇㎡

2階 〇〇㎡

相続登記申請

相続登記の申請は、その不動産の所在地を管轄する法務局で行います。亡くなった方の住所地の法務局とは限りませんから、注意しましょう。管轄の法務局は法務局のホームページなどで確認できます。

また、相続登記申請は郵送やオンラインでも行えます。郵送の場合は必ず簡易書留で送りましょう。オンライン申請には専用ソフトのダウンロードが必要です。パソコン操作や電子署名に関しての知識に問題がないのなら、オンライン申請を検討してもよいでしょう。

相続登記申請に必要な添付書類は、遺言書がある場合とない場合、遺産分割協議をする場合で異なりますので注意しましょう。不明な点は司法書士や税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

申請に必要な添付書類一覧(直接法務局へ申請に行く場合)

法定相続分の割合で登記(遺言書がない)
必要書類 請求先
被相続人の住民票の除票 被相続人が亡くなった時に住民票のあった市区役所(町村役場)
被相続人の出生から死亡まで連続したすべての戸籍 死亡時の戸籍からさかのぼって確認していく
相続人全員の戸籍謄本 相続人それぞれの本籍地の市区役所(町村役場)
相続人全員の住民票 相続人それぞれの住所地の市区役所(町村役場)
固定資産税評価証明書 不動産所在地の市区役所(町村役場)
遺産分割協議をして登記
必要書類 請求先
被相続人の住民票の除票 被相続人が亡くなった時に住民票のあった市区役所(町村役場)
被相続人の出生から死亡まで連続したすべての戸籍 死亡時の本籍地からさかのぼって確認していく
相続人全員の戸籍謄本 相続人それぞれの本籍地の市区役所(町村役場)
当該不動産を取得する相続人の住民票 相続人の住所地の市区役所(町村役場)
相続人全員の印鑑証明書 相続人それぞれの住所地の市区役所(町村役場)
遺産分割協議書 相続人全員が同意の上、署名捺印が必要
固定資産税評価証明書 不動産所在地の市区役所(町村役場)
遺言書の内容に従って登記
必要書類 請求先
被相続人の住民票の除票 被相続人が亡くなった時に住民票のあった市区役所(町村役場)
被相続人の死亡時の戸籍謄本 被相続人の本籍地
当該不動産を取得する相続人の戸籍謄本 相続人の本籍地の市区役所(町村役場)
当該不動産を取得する相続人の住民票 相続人の住所地の市区役所(町村役場)
遺言書 自筆証書遺言は証明文も添付(家庭裁判所で検認する)
固定資産税評価証明書 不動産所在地の市区役所(町村役場)

*固定資産税評価証明書の代わりに固定資産税の納税通知書を使用できますが、法務局によって対応が異なりますので直接相談したほうがよいでしょう。

参考:不動産を相続したら相続登記が必要【手続きの流れを解説】

相続登記にかかる費用

相続登記にかかる費用で一番大きいのは登録免許税と司法書士などの専門家へ支払う報酬です。
ですが、それ以外にも郵送費や証明書代、交通費などがかかります。

相続登記にかかる主な費用

登録免許税 相続登記をする不動産の課税価格(固定資産税評価額)の0.4%
司法書士への報酬 不動産1件につき数万円~
登記謄本の交付手数料 一通750円・450円(交付する謄本の種類による)
戸籍取り寄せの費用など 郵送費もしくは交通費実費
住民票・印鑑証明・住民票の除票など 1通数百円程度
固定資産税証明書の交付手数料 数百円

相続登記は必要?

相続登記には、法律上の期限がありません。つまり、登記をしないままでいても、何ら罰則等はないのです。また、相続登記には費用がかかるため、相続登記をしないままになっている不動産はたくさんあります。

例えば、父親が死亡し、一緒に住んでいた母親が自宅を相続したが、次の相続時には自宅は長男へ渡ると決まっているため、相続登記をしないなどのケースです。その後母親が亡くなり、長男が相続をしたときに相続登記をすれば問題ない、と思いがちですが、最初の相続時に相続登記をしなかったことで思わぬトラブルになることもあります。

相続登記をしていない不動産は担保にできない・売却できない

相続登記をしていない不動産は、相続人の所有物であるという証明ができませんから、担保にしたり、売却したりはできません。

次の相続まで住み続けるつもりだった自宅だとしても、急に現金が必要になり、自宅を担保にしたくなる可能性もあります。また、さまざまな事情により自宅を売却して転居する可能性も否定できません。

このような場合に相続登記をしていないと、すぐに売却はできずに困ることが予想されます。

次の相続が複雑化

相続登記を済ませていない相続不動産を含む遺産分割は、複雑になりがちです。また、次の相続までの間に相続人が増えてしまうことも多いでしょう。次の相続までの間に相続人が亡くなり代襲相続が発生する可能性もあります。

相続登記に必要な書類も、同意を得る必要がある相続人の人数も増え、相続人同士の関係が遠いことで遺産分割協議がまとまりにくくなることもあり得ます。ただでさえ大変な相続登記に必要な書類の準備が、さらに複雑で困難なものになってしまうのです。

知らないうちに相続人の1人が相続登記してしまうことも

法定相続分の相続登記は、法定相続人であれば誰でもできます。そのため、遺言書や遺産分割協議書で、その相続不動産を取得するはずではなかった相続人でも、相続登記を申請できてしまうのです。思わぬトラブルを防ぐためにも、相続登記は早めにしておいた方が安心でしょう。

相続登記はお早めに!迷ったら専門家へ相談

将来の相続のため、もしもの場合に活用するため、思わぬトラブルを防ぐためにも、相続登記は早めに済ませておくことをおすすめします。相続登記は基本的には自分でもできますが、権利関係が複雑な不動産や、遺産分割で揉めている場合などは難しいでしょう。

不明な点は司法書士や税理士などの専門家へ相談するのが得策です。次の相続や節税対策なども考慮したうえで、適切な方法を提案してもらえることでしょう。

税理士に相談するメリット

  • 税務書類の作成や税務署への確定申告作業をすべて代行
  • 無駄な税金を支払う必要がなくなる
  • 現状の把握やアドバイスを受けることができる