遺産相続の基本 2020/8/5

死亡前の預金引き出しはNG?相続預貯金の正しい引き出し方

死亡前の預金引き出しはNG?相続預貯金の正しい引き出し方
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被相続人の死亡前に預金を引き出すことはいけないことなのでしょうか?介護施設への支払いや葬儀費用など、相続に関しての費用をまとめて立て替えるのは大変なことです。今回の記事ではそのような死亡前の預金を引き出す際の注意点、そして相続が開始してから預金を引き出すまでの流れや必要書類について解説しています。

相続開始後に預金口座は凍結されます

相続が開始すると相続人が銀行に預けていた預金口座は「凍結」されてしまいます。預金口座の凍結とは口座の「入出金」ができなくなることで、「引き落とし」や「口座振替」もできなくなることを言います。

口座凍結によりできなくなること

  1. 入出金
  2. 引き落とし
  3. 口座振替

銀行口座が凍結されるタイミング

銀行の口座が凍結されるタイミングは銀行側が「相続人の死亡を知ったタイミング」です。

つまり凍結のタイミングは、銀行側が死亡を知るタイミング次第ですので、実際に相続人が亡くなってすぐ凍結される場合もありますし、しばらく凍結されないという場合もあります。

銀行側が相続人の死亡を知るきっかけは色々と考えられますが、

  • 窓口での遺族からの申し出(残高証明書の取得や名義変更)
  • 新聞の訃報

などにより銀行側は相続人の死亡を知ることができます。多くの場合は遺族による銀行窓口での死亡に伴う名義変更などの手続きの際に知られます。

※役所や病院から死亡についての知らせが銀行に報告されるということはありません。

銀行口座が凍結される理由

ではなぜ被相続人が亡くなると銀行口座が凍結されるのでしょうか?

銀行口座が凍結される理由はズバリ不正な引き出しによる「相続トラブルを避けるため」です。被相続人が亡くなった時点で被相続人が持っていた預金は「相続財産」となります。

この相続財産は通常「遺言」や「遺産分割協議」によって相続人に分配されるわけですから、相続財産を誰かが事前に使っていたとなれば他の相続人の権利が侵害されていることになってしまいます。

そのようなトラブルを防ぐために、銀行は相続人の死亡を知ると直ちに銀行口座を凍結します。持ち逃げや使い込みなどのトラブルを防ぐために凍結が行われます。

この記事のポイント

銀行口座凍結の理由

持ち逃げ/使い込みの防止

本来銀行口座の引き出しは本人でなければできませんから、その本人が亡くなってしまった以上、引き出しはできなくなるというのが原則です。

凍結を解除するための手続き

一度凍結されてしまった口座はどのようにして凍結解除をするのでしょうか?

必要な手順を踏むことにより銀行口座の凍結は解除することができます。銀行口座の凍結を解除するためには一般的に以下の資料が必要となります。

銀行口座凍結解除に必要な書類

  1. 被相続人の戸籍謄本類(除籍謄本、改正原戸籍など、被相続人が生まれてから死亡するまでの全ての戸籍)
  2. 相続人全員の戸籍謄本場合によっては除籍謄本なども必要になる)
  3. 相続人全員の印鑑証明書

遺言書がある場合

  1. 遺言書
  2. 遺言者の戸籍謄本類
  3. 遺言執行者の印鑑証明書

必要書類は遺言書がある場合とない場合、遺言書の内容、遺産分割協議書がある場合ない場合などにより異なります。

また提出した戸籍謄本の返却を前提としているかなど、銀行によりその対応はバラバラです。凍結解除のための必要資料の詳細は個々の銀行窓口でご確認ください。

凍結中にどうしても引き出したい場合には払い出し

凍結中でも葬儀費用や、本人の入院費などの費用に関しては払い出しをしてくれるケースもあります。この場合も銀行により対応や必要資料は様々ですが、銀行側が払い出しに応じてくれるケースもあります。

生前の引き出しはNG?

相続が開始すると相続人の死亡に伴い葬儀費用、入院していた先への支払いや登記関係の支払いなど様々な費用が発生します。

このような大きな支払いに充てるため事前に相続人の預金から引き出し現金を準備しておきたいと思うかもしれません。ですがこのような生前の安易な相続預金の引き出しは後々トラブルになりかねませんので細心の注意が必要です。

相続放棄できなくなることも

まず気をつけなければいけないのが、生前の引き出しにより「相続放棄できなくなる」可能性があるということです。

相続には「単純承認」「限定承認」「相続放棄」という相続方法があり、通常被相続人はどのような形で相続するかを選ぶことができます。

相続の3つの方法

単純承認 財産の全ての権利と義務を、無条件で引き継ぐ
限定承認 「マイナス」の財産は引き継いだ「プラス」の財産の限度内で引き継ぐ
相続放棄 相続に関する一切の権利や義務を放棄

通常、相続財産の全部または一部を「処分」した場合「単純承認」したものとみなされます。つまり被相続人の「引き出し」が「相続財産の処分」とみなされてしまう場合、引き出しをした相続人は単純承認したものとみなされ「相続放棄」することができなくなってしまうことがあるのです。

そのような場合にどのような問題が発生するかというと、相続人に債務があるような場合に問題が生じてきます。仮に単純承認したことになってしまうとその債務も引き継がなければならなくなるからです。

相続人同士のトラブル

また相続人の引き出しという行為が「相続財産」の権利を持っている相続人同士のトラブルに発展しないようにも気をつけなければなりません。

被相続人の残した財産は相続財産として「遺言」または「遺産分割協議」により相続人に配分されます。この相続財産を勝手に引き出すという行為は相続人の権利の侵害となり相続人同士のトラブルになりかねません。

相続人の預貯金の正しい引き出し方(相続開始前)

財産管理委託契約書を作成しておく

実際問題、親が介護を必要としているような場合や入院している場合、親の預貯金を息子や娘などが管理しているようなケースも多くあります。相続人の預貯金を相続開始前に引き出す場合、その後トラブルとならないよう以下のことを行っておきましょう。

預貯金の管理方法

  1. 財産管理委託契約書を作成(どの範囲の財産管理を任されたのかを明確に)
  2. 引き出しの使途をその都度記載
  3. 領収書を保管

親の財産管理を任された場合、「財産管理委託契約書」を作成しておきましょう。財産管理委託契約書にはどの部分の財産管理を任せられていたのかも明確にしておくことが必要です。

また預貯金を引き出した場合には何のための引き出しなのかを記録しておきましょう。実際に使ったものに関しては領収書を保管しておく必要があります。

成年後見人として財産を管理する

親の代理として引き出しや財産を管理する場合、親の「意志」が必要となります。親が認知症などの理由でその意思表示を行えない場合、このような場合には「成年後見人制度」を利用することができます。後見人は①身の回りの契約行為や諸手続き②財産管理を行うことができます。

後見人ができること

  1. 身の回りの契約行為や諸手続き
  2. 財産管理

成年後見人制度には実際に判断能力が低下する前に行える「任意後見人制度」と判断力の低下が見られる場合に周囲の親族などが申し立てることで適用される「裁判後見人制度」があります。

後見人制度の種類

  1. 任意後見人制度
  2. 裁判後見人制度

後見人として認められば財産管理を代理として行うことができます。

死亡後の相続人の預貯金の正しい引き出し方

では相続人が亡くなり相続が開始した場合、その後どのようにして預貯金を引き出したら良いのでしょうか。

相続人の預貯金の確認

預貯金の引き出しを行うためにはまず相続財産の把握をしなければなりません。

生前に親にどこの口座を持っているか確認できる場合には確認しておきましょう。もしもう亡くなっている場合には相続人に届くハガキや封筒、メールなどから銀行口座を確認しましょう。

遺言書の確認

遺言書がある場合、財産の分割はまず遺言書に基づいて行います。相続が開始したら遺言書の有無を確認しましょう。

遺言書には「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」があります。遺言書の種類によってそれぞれ確認方法(探す方法)は異なります。

公正証書遺言

公正証書遺言は被相続人が公証役場に行き作成したもので、遺言書は公証役場に保管されています。ですので遺言書の有無を確認するためには公証役場に問い合わせる必要があります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言も公証人の署名を受けていますが保管は被相続人自身での保管となります。ですが公証役場にて秘密証書遺言の有無に関してのみ確認することができます。

自筆証書遺言

被相続人により手書きで書かれたもの。こちらも被相続人自身での保管となります。

※秘密証書遺言、自筆証書遺言どちらも被相続人自身での保管となっていますが、遺言書を銀行の貸金庫に保管しているケース、付き合いのあった税理士、弁護士などが保管しているというケースもあります。

遺産分割協議

遺産分割協議とは相続人全員で話し合いにより相続財産をどのように分けるかを決める方法です。この話し合いによりまとまった内容を書面にしたものが「遺産分割協議書」となります。

銀行からの引き出しを行う場合には通常この「遺産分割協議書」が必要となります。

銀行引き出しのために必要な書類

相続財産となる銀行口座を把握し、遺言や遺産分割協議により預貯金を誰が相続するのか決定すると、次に必要書類を準備して銀行から引き出しを行うことができます。

銀行により求められる書類は異なりますが、多くの場合以下のような書類が求められます。

相続手続きに必要な書類

  1. 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・原戸籍謄本
  2. 相続人全員の現在戸籍謄本
  3. その他被相続人と相続人との関係を明らかにする戸籍謄本
  4. 遺産分割協議書
  5. 相続人全員の印鑑証明書
  6. 払戻請求書
  7. 振込用紙
  8. 被相続人の通帳、預金証書、キャッシュカード

銀行口座凍結から解除までにかかる期間

引き出しのための必要書類からも分かりますが、相続人同士で話し合いがまとまらない場合、「遺産分割協議書」や「相続人全員の印鑑証明書」などの書類はそろえることはできません。

相続人の銀行口座凍結から引き出しまでにかかる期間は相続人同士の話し合いが長期にわたる場合その分長くなりますし、早く話がまとまればその分早く引き出すことができます。

銀行にもより期間は異なりますが、多くの場合必要書類を提出してから数週間~1ヶ月程度時間がかかります。

引き出しが行われなかった銀行預金の消滅時効

銀行預金の消滅時効は5年、信用金庫・労働金庫・信用協同組合などは10年で消滅時効となります。

しかし時効は援用しない限り効力を生じませんので、自動的に預金債権が消滅するということではなく、ほとんどの場合期間の経過後も相続人からの支払いに応じてくれるそうです。

まとめ:死亡前の預金引き出しはNG?相続預貯金の正しい引き出し方

今回の記事では死亡前の預金の引き出しについて、相続預貯金の正しい引き出し方について紹介しました。

死亡前の預金の引き出しについては2つの側面から気を付けなければならないことがあります。それは

  1. 単純相続とみなされる可能性
  2. 相続人同士のトラブル

です。

このようなトラブルを避けるため被相続人となる方の預金を管理する場合には「財産管理委託契約書」を作成し、かかった費用に関しては領収書を大切に保管しておきましょう。

相続預貯金の引き出しは必要書類を準備して銀行に提出することで行うことができます。銀行提出書類には「遺産分割協議書」や「相続人全員の印鑑証明」などが含まれるため、相続人同士で遺産分割について話をまとめることから始めましょう。

被相続人の現預金の引き出しに関してはトラブルに発展しやすい部分です。不明な点がありましたら専門の税理士にお尋ねください。

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