遺産相続の基本 2022/9/1

不動産と現金の相続、相続税を節約するならどっち?

不動産と現金の相続、相続税を節約するならどっち?
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不動産での相続は、現金で相続するよりも大きく節税できる可能性がありますが、遺産分割協議でもめたり、不動産の価値が下がるリスクもあります。不動産を相続財産として節税を成功させるには、計画性が必要です。

現金よりも不動産の方が相続税を節税できるがリスクも

現金で相続する場合の節税方法は、生前贈与など、金額に限りがあるものですから、それ以上の節税を目指すなら不動産に変えて相続することを検討してもよいでしょう。

ですが、不動産で相続する場合に、相続税の負担が低く抑えられている理由は、節税のためではなく、不動産を相続した人の負担を軽くするためだということに注意しましょう。
過去にも、不動産の相続の負担を軽くするための特例を、特例創設の趣旨とは異なった状況で利用するケースが増えたため、租税回避と判断されて特例の条件を厳しくするなどの税法改正がたびたび行われています。

また、不動産は物価の下落などの要素によって価値の下がるリスクや、自然災害や火事のリスク、老朽化したことによるリフォーム費用の負担などもあります。
価値を評価することが難しく、分割できないため、遺産分割協議が決裂してしまうリスクもあります。不動産が賃貸に供するものだった場合、空き部屋リスクもありますし、相続後の管理や経営の手腕も問われるでしょう。

そのため、不動産で相続することによって相続税を節税したい場合には、税理士などのプロに相談し、綿密な計画をたてることが必須です。

現金で相続する場合の節税方法

現金や預貯金で相続をする場合にも節税は可能です。ここでは代表的な節税方法をあげていきます。

生前贈与は種類も制限もいろいろ

相続財産が現金や預貯金の場合、代表的な節税方法として生前贈与があげられます。
ただし、節税できる金額には限度がありますし、生前贈与は現金でなくとも、不動産などでもできるものです。
また、適切な方法で贈与しないと、贈与税や相続税がかかってしまうので注意が必要です。

贈与税は相続税を補完する役割をもつ

贈与税は相続税の補完税としての性格をもちます。

相続財産の額が多ければ多いほど、相続税の負担は大きくなりますから、生前に財産をできるだけ配偶者や子に与えようと考える人もいるでしょう。
ですがそれが無条件で認められてしまうと、相続税の趣旨に反しますし、相続税の負担に不平等が生じてしまいます。
そのため、生前に贈与した財産についても贈与税を課税して、相続税の補完をする必要があるのです。

つまり、そもそも生前贈与によって大幅な減税ができる仕組みにはなっていないということです。

贈与税の基礎控除は1年に110万円まで

贈与税は1年に110万円までは非課税ですので、これを計画的に利用すれば相続財産を減らし、相続税を節約できます。
子が2人いる場合などは、毎年110万円ずつ10年間に渡り贈与を続ければ2,200万円の相続財産分の相続税を節税できます。

ただし非課税とできるのは暦年贈与といって、毎年新たに贈与契約している場合です。
「10年間に合計1,100万円の贈与をする」など、総額いくらを贈与するということをあらかじめ決めてしまうと、定期贈与(10年間、定期的に110万円の贈与を受ける権利)を決めた最初の年に総額すべての贈与を受けたとされてしまい、贈与税がかかります。

また、相続財産が多額な場合は、非課税の範囲を超えて生前贈与を行ってもトータル的には節税となるケースもあります。

そして、相続開始(被相続人が死亡した時)前の3年間に贈与した財産は、非課税の範囲内であっても相続財産に含まれてしまいます。

生前贈与は計画的に行えば節税になりますが、節税できる額には限度があり、多額の贈与を予定していたことが判明すると贈与税の対象となってしまいます。
生前贈与を行う場合は税理士に相談し、適切な契約書を作成するなど、計画的に節税したほうがよいでしょう。

贈与税には、さまざまな特例があるが使途が特定される上にメリットが少ない

生前贈与には他にもさまざまな特例がありますが、そのほとんどが贈与する相手や使途を指定したものです。使途がはっきりしていれば節税に役立ちますが、そうでなければ無理に生前贈与する必要はないでしょう。また、教育資金や子育ての資金は、そもそも、その都度贈与しても非課税であるため、メリットが少ないという批判もあります。

特例 贈与する相手 用途 非課税上限額
教育資金贈与(平成31年3月31日までの期間限定:平成30年3月現在) 30歳未満の子供や孫 教育資金 1,500万円
結婚子育て資金贈与 20歳~49歳までの子供や孫 結婚

出産

子育て

結婚のみ:300万円

結婚・出産・子育て:1,000万円

夫婦間贈与 婚姻期間が20年を超える配偶者 居住用の不動産持分贈与または新たに取得する居住用不動産取得費用 2,000万円
住宅取得資金贈与 直系の子や孫 居住用の住宅取得資金 300万円~3,000万円(契約時期などによって異なる)

相続人の人数を増やす方法などもあるが専門家に相談を

現金や預貯金をそのまま相続する場合、節税方法はかなり限られます。養子縁組などで法定相続人を増やせば、基礎控除額が増えるため全体的には相続税の節税となります。各相続人の相続額が減ることで、適用される税率が減ることもあるでしょう。

こうした専門的な節税対策をする場合には、税理士に相談し、あとあと問題が起こらないように計画的に手続きを行わなければいけません。

また、こうした節税対策も生前贈与と同じく、現金や預貯金に限らず、不動産の相続時にも使えるものです。

不動産で相続する場合の節税ポイント

現金や預貯金で財産を相続する場合と比べ、不動産で相続する場合には大きな節税が見込めます。また、上記で説明した生前贈与などの節税対策とも併用できます。
不動産を相続する場合の節税ポイントを解説していきます。

建物は3割、土地は2割も安い評価額で課税される

現金や預貯金はその価値がはっきりとしていますが、不動産は評価の基準次第でその評価額が変わるものです。
ですから、相続税の計算に用いる評価額は、一般的に土地(宅地)は時価のおよそ80%程度といわれている相続税路線価で評価し、建物は時価の70%程度と言われている固定資産税評価額で評価します。
つまり、何もしなくても土地は2割、建物は3割が相続税の対象から外され、その部分を節税できるのです。また、実際には時価との差は2割以上、3割以上になることも珍しくありません。

さらに、土地はその土地の特徴によって評価額を減額できます。土地の形状、道路との設置状況、周囲の環境などが減額要素となり得ます。
地積規模の大きな宅地の評価(広大地評価が廃止され新しく新設された特例)を受けるほどの広い土地は、評価額が20%以上(各種補正率による減額も含む)減額できます。

ただし、土地の減額要素探しや、地積規模の大きな宅地の評価の適用要件では、素人判断は禁物です。必ず税理士などの専門家に相談しましょう。

住んでいた家なら評価額80%減

居住していた不動産には、さらに大きな減税となる特例があります。自宅の土地や事業に使用していた土地に小規模宅地の特例を適用すれば、相続時の評価額を80%も減らすことができます。

不動産を他人に貸していたら借地権・借家権分の評価額減

賃貸住宅など、所有している不動産を他人に貸している場合には、その不動産を相続しても自由に使用できないという理由から、相続時は借地権評価額・借家権評価額を引いたものを評価額とします。

借家権は一律30%という決まりがありますので、建物を貸している場合はその建物が自用だった場合の相続税評価額(固定資産評価額)よりさらに30%も評価額が減ります。

土地を貸している場合には、その土地が自用だった場合の相続税評価額(路線価)から国税局が定めた土地ごとの借地権割合を引いて評価額にします。

所有している土地の上に建物を建てて他人に貸している場合(貸家建付地)は少し複雑で、土地が自用だった場合の評価額と、借地権割合、借家権割合、さらに賃貸割合を用いて計算します。

貸家建付地の評価額=自用の場合の土地の評価額-自用の場合の土地の評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

その土地が自用だった場合の相続税評価額が1,000万円、借地権割合が70%、賃貸割合が100%だとすると、
1,000万円-1,000万円×70%×30%×100%=790万円となります。

他人に貸している不動産 相続評価額の計算式
建物 自用の建物の評価額-(自用の建物の評価額×30%)
土地 自用の土地の評価額-(自用の土地の評価額×借地権割合)
貸家建付地 自用の場合の土地の評価額-自用の場合の土地の評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

不動産や現金の相続時に節税したい場合には税理士に相談を

相続財産は、不動産で相続することで大きな節税効果が期待できます。
しかし、そもそも基礎控除分や配偶者控除などで非課税とできる金額以上の相続財産がなければ、わざわざ現金を不動産に変える必要はありません。
不動産の取得にかかるコストや、相続後の不動産の運用コストやリスクを考え合わせると、現金での相続の方が結果的に得になることもあるでしょう。

また、相続財産をアパートなどの貸家建付地に変えて相続税を節約する予定であっても、空き部屋が多ければ賃貸割合が少なくなってしまい、思ったような節税効果がでないこともあります。
さらに遺産分割が難しくなるケースや、不動産を共有する形で相続した場合のその後の不動産経営でもめるケースも考えられます。

一定以上の相続財産があれば、節税対策としてぜひおすすめしたい不動産での相続ですが、実際の節税対策については税理士に相談し、綿密な計画を立てたうえで実行することをおすすめします。

税理士に相談するメリット

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