相続税の節税方法 2020/8/5

配偶者控除とは?相続税節約におけるメリットとデメリット

配偶者控除とは?相続税節約におけるメリットとデメリット
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相続税の配偶者控除は配偶者に対しての非常に大きな税額軽減制度ですが「一次相続」「二次相続」をトータルで考えての節税対策が必要です。今回の記事では具体的な計算例で配偶者控除のメリット・デメリットについてご紹介していきます。

配偶者控除とは配偶者への相続税の税額軽減制度

配偶者控除(正式名称:配偶者の税額の軽減)とは相続の際、配偶者に対して「1億6000万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い金額まで税額がかからないという相続税の税額軽減制度です。

相続財産

  1. 1億6千万円
  2. 配偶者の法定相続分相当額

配偶者が取得する相続財産が(1)(2)どちらか多い金額まで税額がかからない。

1億6000万円と配偶者の法定相続分相当額の「どちらか多い金額まで」ですので、仮に配偶者の法定相続分相当額が2億円であれば2億円まで税額がかからないということになります。

配偶者の法定相続分とは

配偶者の法定相続分とは法律によって定められた相続によって受け取ることができる配偶者の財産分で「相続人に配偶者と子供がいる場合」「配偶者と父母がいる場合」「配偶者と兄弟がいる場合」によって配偶者の法定相続分は変わります。

相続人が「配偶者+子」の場合

配偶者
1/2 1/2

相続人が配偶者と子供の場合⇒配偶者2分の1、子供2分の1

相続人が「配偶者+父母」の場合

配偶者 父母
2/3 1/3

相続人が配偶者と父母の場合⇒配偶者3分の2、父母3分の1

相続人が「配偶者+兄弟」の場合

配偶者 兄弟
3/4 1/4

相続人が配偶者と兄弟の場合⇒配偶者4分の3、兄弟4分の1

この記事のポイント

配偶者の法定相続分

子供や父母、兄弟が2人以上いるときはそれぞれの法定相続分の中で均等に分割します。配偶者は基本的に相続財産の1/2以上は法定相続分として受け取る権利を持っています。

配偶者控除の背景

なぜ配偶者にこれほどまでの相続税の優遇措置が取られるのでしょうか?配偶者控除の背景には以下の3つのことがあると言われています。

配偶者控除の背景

  1. 配偶者は被相続人の財産形成に協力
  2. 残された配偶者の老後保障のため
  3. 次の相続での税負担を考慮

まず被相続人の財産形成には配偶者の協力もあったであろうということへの考慮です。続いて日本の平均寿命から配偶者として残されるのは妻となるケースが多いため、残された妻の老後を保証すること。 最後に被相続人と配偶者の世代が多くの場合近いことから、次の相続までの期間が短いことに対する税負担への考慮などが考えられます。

配偶者控除を受けるための条件

配偶者控除を受けるためには以下の3つの条件を満たすことが必要となります。

配偶者控除を受けるための条件

  1. 婚姻届が提出されている戸籍上の配偶者であること
  2. 相続税の申告期限までに遺産分割されていること
  3. 相続税の申告書を提出すること

配偶者控除を受けられるのは戸籍上の配偶者

配偶者控除を受けることができるのは「戸籍上」の配偶者であり「内縁関係」や「事実婚」「元配偶者」など相続発生時に法律上の配偶者でなかった方は配偶者控除を受けることができません。(※婚姻期間についての条件はありません)

配偶者控除を受けるためには遺産分割がされていること

配偶者控除を受けるためには「遺産分割」が行われてなければなりません。つまりすでに相続人同士での遺産分割協議が行われており、誰がどの財産を受け取るのかが決まっていなければなりません。後述しますが誰がどの遺産を取得するのか記載されている「遺産分割協議書」も相続税申告の添付書類に含まれます。
相続人同士で遺産争いがあるなどの理由から遺産が未分割の状態では配偶者特別控除を受けることはできません。

この記事のポイント

申告期限後3年以内の分割見込書

もし遺産分割の話がまとまらない場合は相続税申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して、法定相続分で一度遺産を分割したと仮定して一度相続税の申告書を提出します。
その後3年以内に遺産分割の話がまとまれば遡って配偶者控除を受けることができます。この場合は分割が成立した日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求を行います。

申告をしなければ配偶者控除は受けられない

配偶者控除を受けるためには「相続税の申告書」を税務署に必ず提出する必要があります。そして相続税の申告書「第五表」に「配偶者の軽減税額の計算書」という様式があるのでそちらを記載して提出します。
※配偶者控除を使うことによって支払う税額がゼロになる場合でも相続税申告をする必要があります!

配偶者控除を受けるために添付資料を提出する

配偶者控除を受けるためには相続税の申告書に加えていくつかの添付資料が必要となります。

  • 戸籍謄本
  • 遺言書の写し
  • 遺産分割協議書の写し(印鑑証明書も添付)

※配偶者控除を受けるためには配偶者が取得した財産が分かる書類を準備する必要があります。 これらの書類を添付しなければ配偶者控除を受けることはできません。

配偶者控除の相続税節約におけるメリット

配偶者控除の最大のメリットはやはり1億6000万円(もしくは配偶者の取得する法定相続分の相続財産)という大きな控除額です。この控除を使えば不動産などの資産価値が高い財産も税金をかけずに配偶者に渡すことも可能ですのでとても魅力的な制度と言えます。

配偶者控除の相続税節約におけるデメリット

相続における配偶者控除は一見メリットしかないように思えますが二次相続も踏まえると「デメリット」と言えるものもあります。

一次相続・二次相続とは?

一次相続は両親のどちらかが亡くなって、相続人として配偶者と子供がいるケースの相続のことを言います。他方二次相続はその後に行われる相続、つまり一次相続のあとに残された配偶者が亡くなった時の相続のことです。

配偶者控除のデメリット:二次相続で相続税額が上がるケース

一次相続、二次相続トータルで考えると、一次相続で配偶者控除があるからといって配偶者に相続財産を全て渡すのは賢明ではない場合があります。
具体的な事例でご紹介します。

一次相続と二次相続の具体的な計算例:一次相続で配偶者が100%相続した場合

被相続人の財産:1億円
相続人:配偶者・子1人

計算方法

<一次相続>

配偶者:相続財産が1億6000万円以下なのでゼロ
子:相続せず
相続税の納付税額⇒ゼロ

<二次相続>

子:1億円-基礎控除(3,000万円+600万円×1)=6400万円
6400万円×30%-700万円=1220万円

相続税の納付税額⇒1220万円

一時相続で配偶者が100%相続する場合
一時相続 ゼロ
二次相続 1220万円
一時相続+二時相続 1220万円

一次相続、二次相続トータルでの相続税の納付額は1220万円になります。

一次相続と二次相続の具体的な計算例:一次相続で配偶者が50%相続した場合

計算方法

<一次相続>

配偶者:相続財産が1億6000万円以下なのでゼロ
子:5,000万円-基礎控除(3000万円+600万円×2)=800万円
800万円×10%=80万円

相続税の納付税額⇒80万円

<二次相続>

子:5000万円-基礎控除(3000万円+600万円×1)=1400万円
1400万円×15%-50万円=160万円

相続税の納付税額⇒160万円

一時相続で配偶者が50%相続する場合
一時相続 80万円
二時相続 160万円
一時相続+二時相続 240万円

一次相続だけを考えた場合、配偶者控除のデメリットは見えてきません。しかし残された配偶者が亡くなったあとの相続(二次相続)について考えた場合、配偶者控除が使えるからといって「残された財産を全額配偶者に相続すること」は危険です。
一次相続、二次相続をトータルで考えると多く相続税を支払うケースもあります。

先ほどの計算例で言えば一次相続で配偶者が50%相続した場合の方が100%相続するよりも980万円の節税になります。同じ相続でも一次相続の相続割合によって980万円も支払う税額が変わるのです!

配偶者の遺産取得を50%にするとなぜ税額が変わるのか

なぜ配偶者が一次相続で100%財産を取得する場合と50%を事前に子供に相続させる場合ではこれほどまで税額が変わってくるのでしょうか?

それには2つの理由があります。

①二次相続では相続人の人数が一人少なくなっている。

当たり前ですが二次相続では配偶者が亡くなり相続人が一人少なくなります。先ほどの例では相続財産を一次相続で100%配偶者に相続させてしまっていた場合には相続人は2人いますが、配偶者がいなくなると相続人は1人です。

相続税の基礎控除は3000万円+(600万円×『相続人の数』)ですので、相続人が少なくなると「基礎控除額」も下がります。

<一次相続>

相続人2人の場合の基礎控除
3000万円+(600万円×2)=4200万円

<二次相続>

相続人1人の場合の基礎控除
3000万円+(600万円×1)=3600万円

一次相続と比べて二次相続の場合は600万円基礎控除額が少なくなります。

チェックポイント

「基礎控除」は相続財産からマイナスすることができる控除です。

②相続税は累進課税

各法定相続人の取得金額 税率 控除額
~1,000万円以下 10%
1,000万円超~3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超~5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超~1億円以下 30% 700万円
1億円超~2億円以下 40% 1,700万円
2億円超~3億円以下 45% 2,700万円
3億円超~6億円以下 50% 4,200万円
6億円超~ 55% 7,200万円

相続税の税率は「累進課税制度」を採用しています。累進課税制度とは相続財産が多ければ税率も上がっていくという制度です。そのため財産が一箇所に集中しているよりも分散されている方が税率は下がります。

事前に一次相続で財産を子に分配しておくことにより結果的に二次相続での「税率」を下げることができるのです。

先ほどの例では二次相続での「子供」の税率は配偶者が100%相続する場合と50%相続する場合では税率が30%⇒15%にまで下がります。

配偶者控除のデメリットの前提

先ほどの計算例では被相続人から受け取った財産と同じ額を配偶者が「そのまま」子供に相続したことを前提とした計算です。
実際には相続人である配偶者がそのあと何年生き続けるかは分かりません。この二次相続も考慮した税金対策は被相続人と配偶者が「近い期間に亡くなる」ということを前提としており、残された配偶者がその後どれくらい生きるのか、医療や介護などでどれくらい費用がかかるかということも実際には考慮しなければなりません。

チェックポイント

医療費などを考慮し預金関係はできるだけ配偶者に相続させることも検討

まとめ:相続税の配偶者控除は二次相続も踏まえて検討

相続税の配偶者控除は相続により受け取る財産が1億6000万円と法定相続分のどちらか多い金額まで相続税がかからないという配偶者に対しての非常に大きな税額軽減制度です。

しかし配偶者控除を使い「どれだけ配偶者に相続させるか」については一次相続、二次相続トータルで考えての節税対策が必要です。

二次相続を踏まえた相続税の節税に対して専門的なアドバイスや具体的なご自分の事例でのご相談は相続に強い税理士にご相談することをお勧めします。

税理士に相談するメリット

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