遺産相続の基本 2019/2/22

成年後見制度を利用した相続~後見人選任の条件と手続きの流れ

成年後見制度を利用した相続~後見人選任の条件と手続きの流れ
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相続人が高齢で認知症の場合や、知的障害のある相続人がいる場合、相続手続きが進まずに困ったことになります。このような場合、成年後見制度を利用することで、相続人の利益を守りながら相続手続きを行うことができます。今回は後見人の種類や成年後見制度利用の流れについて解説します。

成年後見人とは

認知症の高齢者が現預金を管理できなくなると、支払いがたまってしまったり、必要のない高額な商品を買わされてしまったりというトラブルが生じます。振り込め詐欺などの被害にあってしまうこともありますね。家族や親族にお金を使いこまれてしまうという事例も、意外と多いものです。

成年後見人は、判断能力の十分でない人が不利益を被らないように保護し、支援する役割を担っています。

相続手続きと成年後見人

相続手続きでは、さまざまな法的判断が求められます。判断能力が十分でない相続人が手続きを行うことでミスや勘違いが生じることもありますし、相続手続き自体がストップしてしまう可能性もあります。

判断力が低下していると遺産分割協議で遺産をどう分けるのか決めることができません。自身に不利な条件での遺産分割に同意してしまうリスクもあります。

また、遺産分割協議は相続人全員が参加しなければいけません。遺産分割協議に参加できないほど判断能力が低下した相続人がいる場合には遺産分割協議自体ができなくなってしまうのです。

このような場合に必要となってくるのが、成年後見人です。

成年後見人が必要な人

成年後見制度を利用できるのは、認知症・精神障害・知的障害の人などです。これらの疾患により判断能力が不十分な状態が続くと、財産を管理するのが難しく、自身に不利益な契約を結んでしまう可能性もあります。

後見人は契約を代理で行うだけでなく、不利な契約を取り消すこともできます。また、後見人は重要な契約などについて代理・取り消しをしますが、日常的な買い物などは対象になりません。

未成年者の場合は?

未成年者も判断力が不十分と考えられますから、重要な契約などには後見人が必要です。通常は両親が法定代理人となります。

しかし相続では、法定代理人である親とともに相続人になる場合も多くあります。すると遺産分割で親と子の利益が相反してしまいます。そのため、特別代理人を家庭裁判所で選任してもらう必要があります。

特別代理人の選任申立てをするのは、未成年者本人ではなく、法定代理人である親です。もしも両親がすでに他界している場合は、未成年後見人を家庭裁判所が選任します。

成年後見人の種類

成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度があります。法定後見制度は、本人(被後見人)の判断能力の程度によってさらに補助・補佐・後見の3つに区別されます。

制度 選任の時期 種類
任意後見制度 判断力があるとき 後見人
法定後見制度 判断力が低下してから 補助人
補佐人
後見人

任意後見制度

将来判断能力が不足する事態に備えて、あらかじめ後見人を選任するのが、任意後見制度です。判断能力がある時点で選任しますので、被後見人の意思で後見人を選択できるというメリットがあります。

また、任意後見制度では、家庭裁判所が任意後見監督人を選任します。任意後見監督人は、任意後見人がきちんと後見人としての役割を果たしているかチェックするので安心です。

ただし、判断能力が低下してしまったあとでは任意後見制度を利用できません。

法定後見制度

法定後見制度では、被後見人の判断力が低下してからでないと後見人の選任申立てができません。後見人の選任の申立ては、本人・配偶者・親族(4親等内)などが行います。

法定後見制度では、後見人・補佐人・補助人という3種類の成年後見人等から、被後見人の判断能力の程度にあったもの選択します。

後見人

判断力を常に失っている状態、またはこれに等しい状態の場合は、後見人を選択します。後見人は財産に関するすべての法律行為を代理します。ただし、普段の買い物など、日常生活に関するものは含まれません。

法定後見制度で後見を選択することで、医師・税理士などの資格や会社役員・公務員などの地位を失います。

補佐人

判断能力が著しく低下している状態では、補佐人を選択します。補佐人は家庭裁判所が定める特定の法律行為を代理します。ただし、申立ての範囲内に限ります。

保佐人を選択するような状況では、被後見人の判断能力が少しある状態のため、選任には被後見人の同意が必要です。補佐人を選任した場合も、医師・税理士などの資格や会社役員・公務員などの地位を失います。

補助人

判断能力が普通の人に比べて低下している状態では、補助人を選択します。補助人も保佐人と同じく、申立ての範囲内で特定の法律行為を代理します。

補助人を選択する場合も、被後見人の判断能力は残っていますから、選任には被後見人の同意が必要です。補助人を選任するケースでは、被後見人が資格や地位を制限されることはありません。

参考リンク:法定後見制度の概要:法務省

  後見 補佐 補助
対象 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 判断能力が著しく不十分な方 判断能力が不十分な方
成年後見人等に与えられる代理権 財産に関するすべての法律行為 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める特定の法律行為 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める特定の法律行為
成年後見人等の同意が必要な行為 借金・訴訟行為、相続の承認と放棄、新築・改築・増築など 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める特定の法律行為(借金・訴訟行為、相続の承認と放棄、新築・改築・増築などの中から一部の行為)
取り消しが可能な行為 日常生活に関する行為以外 借金・訴訟行為、相続の承認と放棄、新築・改築・増築など 申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める特定の法律行為(借金・訴訟行為、相続の承認と放棄、新築・改築・増築などの中から一部の行為)
制度を利用した場合に制限される資格等 医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失うなど 医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失うなど

相続で後見人ができること

後見人は相続に関する手続きを代理で行います。なお、保佐人や補助人は申立て時に代理権を与えられた場合に、代理で手続きを行います。

遺産分割

遺産分割の際には、判断力が十分ではない被後見人に代わって成年後見人が遺産分割協議に参加します。署名捺印も被後見人ではなく成年後見人が行います。

相続放棄

相続財産に対して負債の方が多いケースなど、相続放棄が必要な場合も成年後見人が手続きを行います。

その他相続手続き

相続による不動産の名義変更(相続登記)や、銀行預金の相続手続き、相続税申告手続きなど、さまざまな法的手続きや財産管理を成年後見人が代理で行います。

後見人になれる人となれない人

後見人になれる人

任意後見人

任意後見制度では、被後見人が選択した人が後見人になります。

成年後見人等

法定後見制度では、家庭裁判所が成年後見人等を選任します。希望を伝えることはできますが、裁判所の判断で法律・福祉の専門職(弁護士・司法書士など)が選任されるケースもあります。

成年後見人等は複数選任することも可能です。任意後見制度と違い、通常は監督人を選ぶ必要がありません。しかし保有財産が多い場合など、裁判所の判断で成年後見監督人を選任することもあります。

後見人になれない人

次のような人は後見人になれません。

  • 未成年者
  • 破産者
  • 被後見人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
  • 行方の知れない人

親族が後見人になる場合

任意後見制度でも、法定後見制度でも、親族を後見人として希望するケースが多くなります。

利益相反の可能性

しかし、相続では遺産分割協議で親族と利益が相反する可能性もあります。被後見人と親族がともに相続人になるケースなどです。

この場合、成年後見監督人がいる場合には成年後見監督人が相続手続きを代理します。成年後見監督人がいない場合には、特別代理人を選任しなければなりません。

親族が後見人を希望してもなれないケースも

また、法定後見制度では、親族間にトラブルがある場合などに家庭裁判所によって専門職が選任されることがあります。これに不服申立てはできませんので注意しましょう。

専門職が後見人になる場合

親族ではなく、最初から弁護士・司法書士などの専門職に後見人をお願いすれば、利益相反の心配はありません。

法定後見制度でも、申立て時に決まった専門職を候補者として希望すれば、見ず知らずの専門職を家庭裁判所に選任されるリスクは減ります。しかし、親族以外の専門職が後見人になることにはデメリットもあります。

後見人の費用

親族が後見人になる場合は、報酬を辞退してもらえば費用はかかりません。しかし専門職が後見人になる場合、毎月一定額の費用がかかり、さらに特別な業務に関して追加で費用がかかることもあります。

任意後見制度の場合は契約によって費用が変わりますが、法定後見制度では家庭裁判所が報酬を決定します。基本報酬はどちらも一般的に月額2万円から6万円(管理財産額による)程度です。

さらに、成年後見監督人がいる場合、成年後見監督人にも報酬を支払う必要があります。月額1万円から3万円が目安です。

相続が終わっても成年後見人等は解任できない

任意後見制度は正当な理由があれば、契約を解除することで後見人を辞めてもらえます。しかし、成年後見人等は相続手続きが終わっても解任できません。つまり相続手続きが完了した後も報酬を払い続けなければいけないのです。

後見人は相続手続き以外でもさまざまな役割を担います。親族などが成年後見人等になった場合も、よく考えずに引き受けると、あとあと重荷になってしまう可能性があります。

後見人選任の流れ

次に、後見人選任の流れをみてみましょう。

任意後見制度

任意後見制度では、被後見人と任意後見人との間で契約をします。

  1. 判断能力のある被後見人が、希望する任意後見人(親族・友人・弁護士・司法書士など)との間で契約内容を決める
  2. 公正証書を作成し、任意後見契約を締結
  3. 認知症などにより判断能力が低下した時点で、任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申立てる
  4. 家庭裁判所が任意後見監督人を選任(任意後見監督人の報酬が決定)
  5. 任意後見人が支援を開始(任意後見監督人が任意後見人を監督する)

任意後見制度で必要な費用

公正証書作成 11,000円(1契約あたり)
登記嘱託手数料 1,400円
収入印紙 2,600円

任意後見制度で必要な書類

被後見人 印鑑登録証明書・戸籍謄本・住民票
任意後見受任者(任意後見人) 印鑑登録証明書・住民票

法定後見制度

法定後見制度を利用するには、家庭裁判所に成年後見人の選任の申立てをします。

  1. 申立準備(後見・補佐・補助の中から被後見人の状況にあったものを選択し、必要書類を準備する)
  2. 家庭裁判所へ後見等の申立て(申立書類の提出)
  3. 法定後見開始の審理(申立書類の審査・調査・申立人等の面接・親族への照会・鑑定など)
  4. 法定後見開始の審判(後見等の開始の判断・成年後見人等の選任など)
  5. 成年後見人等による支援開始(裁判所が後見人等を監督・必要に応じて成年後見監督人を選任して監督させる)

法定後見制度で必要な費用

申立手数料 800円(申立てごと)
登記手数料 2,600円
郵便切手 約4,000円分(連絡用・裁判所により異なる)
鑑定費用 10万円程度(必要な場合のみ)

法定後見制度で必要な書類

  • 申立書類(申立書・申立書付票・親族関係図・後見人等候補者身上書など)
  • 医師の診断書
  • 被後見人の戸籍謄本・住民票
  • 成年後見等に関する登記が、既に行われていないことを証明する登記事項証明書
  • 被後見人の健康状態がわかる資料(要介護度がわかる資料・障害者手帳など)
  • 被後見人の財産等に関する資料(不動産・現預金・生命保険・負債・収入・支出など)

成年後見制度を利用する場合の注意点

判断能力が低下した相続人がいて相続手続きが全く進まない場合などには、成年後見制度は役立つことでしょう。しかし、成年後見制度を利用する場合、注意しなければならない点があります。

後見人や後見監督人を選べない

法定後見制度では、後見人は裁判所の判断で決まります。親族の希望が通るとは限らず、希望が通っても後見監督人を付けられる可能性があります。

任意後見制度では、後見人は選べますが、後見監督人を必ず付けられます。そして後見監督人の選任は裁判所行います。

後見人や後見監督人を解任できない

成年後見制度は一度利用すると、被後見人の症状が回復しない限り後見人を立て続けなければなりません。そして、法定後見人等は原則的には解任できません。

親族が後見人となった場合は辞任を申し出ることで状況によっては後見人の交代が認められます。しかし、次に希望する後見人候補が認められるとは限りません。後見人交代のタイミングで後見監督人が選任されることもあります。

これらは被後見人の財産を守るために必要なことなのですが、後見人や後見監督人への報酬が発生し続けることや、後見人や後見監督人の許可を得ずに預貯金を利用できないなど、被後見人やその家族への負担が生じることも確かです。

税負担を考慮した遺産分割ができない

後見人は被後見人が損をすることには同意できません。法定相続分以下での遺産分割には基本的に同意できませんから、税負担を考慮した遺産分割ができなくなってしまうケースもあります。

相続全体では税負担が減ったとしても、被後見人個人の取り分が減ることを後見人は選択できないのです。

成年後見制度を利用しない相続も

判断能力が低下している相続人がいたとしても、遺言による相続をする場合や、法定相続割合での相続なら、成年後見制度を利用せずに済むケースもあります。

高齢のご家族や知的障害のご家族がいる場方は専門家へ相談し、早めに相続対策をはじめることをおすすめします。

後見人を利用した相続は税理士へ相談を

判断能力が低下している相続人がいる場合、成年後見制度を利用して相続手続きを進めるという選択肢もあります。しかし、成年後見制度には注意点もあり、慎重な判断が求められます。

相続手続きのために後見人の選任を検討している場合は、一度専門家へ相談した方がよいでしょう。税理士なら、相続税負担と、後見人への報酬のバランスなどを考慮した上でのアドバイスが可能です。

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